私が耳鼻咽喉科を選んだ理由を端的にまとめるなら、その「守備範囲の広さ」で「日常の些細な幸せを支える」という仕事内容に魅せられたからです。内科的な薬物治療のみならず外科手技によって治療に取り組める、治療戦略を豊富に持つ科であること。化膿性中耳炎の鼓膜切開や習慣性扁桃炎の扁桃摘出さらには先天聾に対する人工内耳埋込などの小児医療を扱いつつも、加齢によって衰える聴覚、平衡覚、嗅覚、味覚を扱う高齢者医療にも対応する。のんびりと耳垢を除去してあげたり鼻漏を吸引してあげる一方で、餅をのどに詰めた患者さんに時を逸せずその場で緊急気管切開、という救急外科医の側面。さらに好奇心旺盛な耳鼻咽喉科は、スポーツ平衡医学の側面からアスリートを指導したり、音声医学の側面から歌手やアナウンサーを指導したり。今後も耳鼻咽喉科の守備範囲は広がっていくでしょう。このように一つの科が同時に多種多様な分野を持ち合わせており、したがって耳鼻咽喉科に進路を決めてからも自分の向き不向きに応じて自由に専門分野を選ぶことができるのが魅力です。しかも、耳鼻咽喉科専門医という耳鼻咽喉科共通の専門医一つを取得更新すれば良い、という極めてシンプルな構造であることも魅力です。この「広大な耳鼻咽喉科の守備範囲」の中で私の興味の居場所はたまたまめまい平衡医学だったわけですが、あなたの興味の居場所も必ずそこにあるはずです。
愛する人と食事に出掛ける。そんな「日常の幸せなひととき」を耳鼻咽喉科は支えています。愛しい相手の声は自分の内耳に響き、自分の声は喉頭を優しく震わせ相手に伝わる。美味しい食事、その香りは二人の嗅覚を刺激し、その味覚を堪能しながら咽頭から食道へと嚥下される。食事のあとはカラオケで喉頭を震わせますか?平衡覚が損なわれるほどの飲み過ぎには注意しましょう。