鼻副鼻腔・アレルギー

担当医師
山下哲範岡安 唯成尾一彦

はじめに

副鼻腔炎(鼻ポリープを含む)、副鼻腔嚢胞、鼻副鼻腔真菌症、アレルギー性鼻炎、腫瘍(主に乳頭腫など良性疾患)、眼窩吹き抜け骨折、など主として手術が必要な症例を対象としています。近年、指定難病にも認定されている好酸球性副鼻腔炎と呼ばれる難治性の副鼻腔炎が増加しており、治療に難渋する症例が多くなっています。当科では手術による副鼻腔単洞化と術後のステロイド加療や鼻洗浄などの局所管理を徹底的に行っていただくことで可能な限り再発を減らすように努めております。また、昨年度よりアレルギー性鼻炎に対して日帰りでのCo2 Laserを用いた鼻粘膜焼灼術を開始しました。内視鏡を用いた低侵襲の手術だけでなく、大学病院という特徴を生かし鼻副鼻腔悪性腫瘍手術や頭蓋底手術も頭頸部腫瘍グループと合同で行っており、患者様のニーズに応じた治療を行えるような体制を整えております。

対象疾患

  • 慢性副鼻腔炎
  • 鼻茸
  • 副鼻腔嚢胞(術後性頬部嚢胞)
  • 鼻副鼻腔真菌症
  • アレルギー性鼻炎
  • 鼻・副鼻腔腫瘍(良性腫瘍)
  • 眼窩吹き抜け骨折
  • 鼻性眼窩内膿瘍
  • 鼻副鼻腔悪性腫瘍(頭頸部腫瘍グループと合同で治療にあたります)
内視鏡検査風景

手術症例数

2015年~2017年の3年間に当院でおこなった鼻副鼻腔手術は221例でした(表1:鼻副鼻腔手術件数)。大学病院という性格上、合併症のない若年者での副鼻腔炎症例に比べ高齢者の鼻副鼻腔真菌症や腫瘍(主として乳頭腫など良性腫瘍)・好酸球性副鼻腔炎に対する内視鏡手術が相対的に増加しております。また、内視鏡を用いた低侵襲手術により悪性腫瘍を摘出したり、従来の犬歯窩アプローチによる腫瘍摘出術においても内視鏡を併用し安全かつ丁寧な手術を行えるような体制を整えております。また頭頸部腫瘍治療グループとも協力し、週1回のカンファレンスで症例を検討することで腫瘍性疾患の適切な治療を提供しております。広範囲に浸潤した鼻副鼻腔原発の悪性腫瘍に対しては、頭蓋底手術や再建術などを形成外科や脳神経外科などと協力し行っております。

鼻副鼻腔手術件数(平成27年1月1日~平成29年12月31日まで)
慢性副鼻腔炎 100例
鼻副鼻腔真菌症 16例
鼻副鼻腔のう胞 22例
鼻中隔彎曲症 25例
肥厚性鼻炎(粘膜下下鼻甲介骨切除術) 13例
良性腫瘍(鼻副鼻腔乳頭腫等) 17例
悪性腫瘍(内視鏡・再建術等) 17例
眼窩内膿瘍 4例
その他 7例

ナビゲーション等の手術支援機器

当科では平成20年より手術用ナビゲーションを導入し、再発例や難治例などを中心にナビゲーション下に手術を行っております。当初は脳神経外科よりの借用であったため使用症例は非常にかぎられておりましたが、平成26年4月に耳鼻咽喉科領域に特化した磁場式手術用ナビゲーションを導入しそれ以後ほぼ全例に使用しております。ナビゲーションはあくまで手術支援器機ですが、手術器具の先端が患者さんの体内のどの部位にあるかをリアルタイムにCT上に表示できるシステムです。鼻副鼻腔の上方は頭蓋底、側方は眼窩が存在しそれらの副損傷は極めて重大です。このナビゲーションシステムを使用すればそれらの副損傷を未然に防止してより安全に手術を行うことが可能です。当科では専用のナビゲーションシステムを導入以降、術前に頭蓋内浸潤や眼窩内浸潤を認めた症例以外では、頭蓋内・眼窩内の副損傷は認めておりません。

ナビゲーション以外に内視鏡レンズ先端洗浄システム、術中洗浄システム(ハイドロデブリッターシステム)も常備しており必要な症例には有効活用しております。

鼻アレルギーに対する治療

アレルギー性鼻炎は鼻粘膜のⅠ型アレルギー反応により引き起こされる疾患で、原則的には発作性・反復性のくしゃみ、水様生鼻汁、鼻閉を3主徴とする疾患です。鼻アレルギー診療ガイドライン2016によると、奈良県の通年性アレルギー性鼻炎の有病率は27.8%、スギ花粉症の有病率は35.0%であり、アレルギー性鼻炎全体でも47.2%の有病率を示し、これは全国平均を大きく上回っており、多くの患者様が花粉症や夕年生アレルギーの症状に苦しんでいることが示唆されます。治療の目標は、症状はないかあってもごく軽度であり日常生活には支障が出ない状態まで安定させることです。

アレルギー性鼻炎の治療法は①患者とのコミュニケーション②抗原の除去・回避③薬物療法④アレルゲン免疫療法⑤手術療法に分けられます。近年、治療薬の進歩により副作用が抑制された新薬が多く販売され、患者様の治療満足度は上昇傾向にはありますが、現在においても薬物療法は対症療法の域を脱しておらず、根治治療には至っていないのも現状です。アレルギー性鼻炎の治癒または長期間会を期待できる唯一の方法はアレルゲン目根気療法で、日本ではながらく、皮下免疫療法が行われてきましたが、一般の普及にはいたらなかった。この点を改善するために絶歌目根気療法が導入され日本においても家庭内でできる簡便な治療法として普及しつつあります。また、手術治療は長期に発作が反復した結果として、薬物療法に抵抗する症例に用いられております。

舌下免疫療法

2014年にスギ花粉症に対して、2015年にダニアレルギーに対しての舌下免疫療法が保険適応になったことで長期寛解をを目指した新しい利用法が普及しつつあります。一般的に8割以上の患者様に有効性が認めれれているという報告があり、根本的な体質改善を望む患者様には期待されている治療法と勘がられます。2年以上の治療継続が勧めらえていることや、非常に少ないですが注意が必要な副作用も認めることから慎重に治療を行っていくことも必要です。

当科においては現在、近隣のクリニックと連携を行ったうえでの舌下免疫療法の開始を検討しております。

手術療法

鼻汁・くしゃみは比較的に薬物療法に反応することがおおいため手術療法の第一の目的は鼻閉の改善であることが多い。適応としては内服や点鼻薬などを組み合わせた薬物治療に抵抗性である場合である

  1. 鼻粘膜に対する手術:電気凝固法.Laser手術、80%トリクロール酢酸塗布等。
  2. 鼻閉の改善を目的とした手術:粘膜下下鼻甲介骨切除術、下鼻甲介粘膜切除術、鼻中隔矯正術等。
  3. 鼻漏の改善を目的とした手術:Vidian神経切断術、後鼻神経切断術

当科においては昨年Co2Laser焼灼装置を導入し、日帰りでの鼻粘膜焼灼術を行う体制を整えたため、積極的にLaser焼灼術をすすめている。また下鼻甲介腫脹が激しい症例や鼻中隔の彎曲が強く手術により鼻腔通気度が改善が期待できる症例に関しては鼻閉改善手術を取り入れております。

好酸球性副鼻腔炎に対する治療

一般的に慢性副鼻腔炎は副鼻腔への感染が契機となり、炎症が遷延化することで発症すると考えられてきましたが、このような成因と異なる機序で病態を形成し、鼻副鼻腔粘膜の好酸球優位な炎症細胞浸潤を特徴とする非常に治療に抵抗性で難治性である好酸球性副鼻腔炎が、近年、増加してきております。好酸球性副鼻腔炎は、多くのアレルギー疾患の本態と考えられているTh2細胞やIL C2が産生するType 2サイトカインが引き起こす「Type 2炎症」によるものとされており、通常の慢性副鼻腔炎とは異なったアプローチの診断・治療が必要になります。下記に好酸球性副鼻腔炎の診断基準と重症度分類を示します。中等症以上の好酸球性副鼻腔炎と診断された場合は、指定難病制度により治療費の補助が出ることもあります。好酸球性副鼻腔炎は喘息や鎮痛剤のアレルギーを合併することも多く、呼吸器内科と連携しながら治療に当たることも必要であり、一般的な慢性副鼻腔炎の内服加療を行っても症状が改善しなかったり、従来通りの手術加療を行っても再発を繰り返すため、周術期や術後に徹底した鼻腔内・全身の管理を行うことが必要です。

当科では症例に応じて、術前からのステロイド投与を行ったり、術後のステロイド加療を追加したりすることで徹底した内服管理を行い、また、術後には鼻洗浄を行うことを指導し鼻副鼻腔内の粘膜状態の管理を徹底して行っております。残念ながら、再発をしてしまった症例には、再手術を行うか、生物由来製剤(ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクロナール抗体)を用いることで、寛解またはコントロールされた状態を維持できるように心がけております。

慢性副鼻腔炎の診断・分類アルゴリズム

好酸球性副鼻腔炎の診断基準
<JESREC スコア>
① 病側:両側 3点
② 鼻茸あり 2点
③ CTにて篩骨洞優位の陰影あり 2点
④ 末梢血好酸球(%) 2< ≦5 4点
5< ≦10 8点
10<   10点
合計

JESREC スコア合計:11点以上を示し、鼻茸組織中好酸球数(400倍視野)
70個以上存在した場合確定診断とする。

今後の展望

気管支喘息を合併し嗅覚低下をきたす好酸球性副鼻腔炎は再発しやすく難治性です。手術のみならず術後治療も大切で、患者さんのQOL維持に寄与したいと考えております。内視鏡を取り巻く手術器機は今後も目覚ましい進歩が期待され、腫瘍性病変の治療などその適応拡大も予想されます。最新の知識・技術の習得にも努め少しでも患者さんにより負担の少ない治療を提供できることを目指しております。